リテンションマーケティングについて
日本では高齢化と人口減少が進む中で、新規顧客の獲得が難しくなっており、企業の成長には既存顧客との関係を維持することが重要です。企業の売上の約80%が優良顧客の約20%から生まれるとも言われる中、丁寧なコミュニケーションや高い価値の提供を通じて「またこの商品・サービスを使いたい」と思ってもらうリテンションマーケティングが求められています。当記事では、リテンションマーケティングの重要性、メリット、具体的な取り組み手法、そして成功事例について解説します。
リテンションマーケティングとは
リテンション(Retention)は「維持・保持」を意味する言葉で、リテンションマーケティングとは、既存の顧客を維持し、長期間にわたって良好な関係を築くことを目的としたマーケティング手法です。
リテンションマーケティングは、顧客の生涯価値(LTV)を最大化するために重要な戦略であり、ビジネスの成長と収益性を向上させる効果があります。
リテンションマーケティングが注目されるようになった背景
リテンションマーケティングが注目されるようになった背景には、以下の2点が考えられます。
新規顧客の獲得が難しくなった
商品やサービスの市場が成熟している場合や競合他社が多い業界では、他との差別化が困難になります。結果として安さのみで売り込む価格競争に陥ってしまうこともあります。価格競争に陥ると利益も少なくリピーターも定着できないため、企業にとって好ましい状況ではありません。
こうした事態が様々な業界業種で顕在化してきており、既存顧客へのアプローチとしてリテンションマーケティングが注目されています。
SNSの浸透により注目度が高まった
Instagramやfacebook、XといったSNSが普及したことで、企業は顧客と直接コミュニケーションを取ることが簡単になりました。顧客が自社の公式アカウントをフォローしたり、商品やサービスについてポジティブな投稿をしてくれた場合、企業側からお礼のコメントを返したり、積極的にコミュニケーションをとることで良好な関係が築けます。またSNSは基本的に無料で利用ができるため、広告予算を抑えて㏚活動ができます。
リテンションマーケティングを行う3つのメリット
ここからは、リテンションマーケティングを行う3つのメリットをご紹介します。
(1)新規顧客を獲得するよりも費用対効果が良い
マーケティングの考え方の一つに「1:5の法則」があります。これは、新規の顧客を獲得するためには、既存顧客の5倍のコストが発生するという法則です。リテンションマーケティングも新規顧客の獲得と比較すると費用対効果が良いといわれています。新規顧客を獲得するためには、自社の商品やサービスの認知から始まり、最終的に受注に到るまでに長いフローを必要とするため、多くのコストが発生します。
新規顧客に対して既存顧客は、既に自社の商品・サービスを利用したことがあることが前提となります。そのため、リピートを促すための施策を実施した場合でも新規顧客を獲得するためのコストほどはかかりません。似たような条件でマーケティング施策を打つのであれば、新規顧客よりも既存顧客にアプローチする方が、費用対効果を得やすいといった側面があります。
(2)既存顧客のLTV向上に繋がる
LTV(Life Time Value)は、「顧客生涯価値」と呼ばれ、顧客が製品やサービスを使う間にもたらす利益のことを指します。
LTVは、以下の公式で求められます。
LTV = APRU(1ユーザーあたりの平均単価)× 粗利率 × チャーンレート(解約率) |
リテンションマーケティングは、上記の「APRU」や「チャーンレート」の変数を高められるといったメリットがあります。例えば、ECサイト等で特定の商品を見ている時に、「この商品と一緒に購入されている商品」や「この商品と類似した商品」といったレコメンドを見ることがあります。レコメンドを表示させることで、合わせ買い(クロスセル)や購入を検討している商品より高価格な商品の購入(アップセル)を促進し、LTVを最大化する効果があります。
LTV(ライフタイムバリュー)の重要性や計算方法を徹底解説!
(3)休眠顧客の掘り起こしにつながる
「休眠顧客」とは、過去に商品の購入やサービス利用があったものの、その後一定期間以上、購入や利用がない顧客を指します。休眠顧客は過去に自社の商品・サービスに興味や関心を抱き、購入した顧客です。そのため利用を辞めてしまった原因を探り、解決策を提案することで、将来的に優良顧客になる可能性があります。
例えば、業務効率化ツールを導入したものの、使い方が理解できず利用を辞めてしまった顧客に対して、機能面や使い方について説明会を開催したり、活用方法を動画にして配信するといった施策を用いることで、「使い方が理解できない」といった原因を取り除けます。
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リテンションマーケティングの手法
マーケティング活動は「新規顧客の獲得」と「既存顧客との関係強化」の2種類に大別でき、リテンションマーケティングは後者に該当します。既存顧客を自社のファンに育てていく取り組みが重要であり、以下に具体的な手法を紹介します。
メールマーケティング
メールマーケティングは、既存顧客に対して、メールマガジンやステップメール、シナリオメールといったメール配信を通じてリテンションを図る手法です。主なメールマーケティングの種類は、全部で4つあります。
- メルマガ(一斉配信メール)
- One To Oneメール(パーソナライズドメール)
- ステップメール
- リターゲティングメール
リテンションマーケティングに効果的なメールマガジンは、商品やサービスの機能や使い方に関する情報や割引クーポン、キャンペーン情報などを顧客に届けることによって、既存顧客のリピートを期待できます。
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SNS
リテンションマーケティングには、XやInstagramなどSNSが活用されるケースもあります。例えば、NTTドコモでは、Xで公式アカウント「ドコモ公式サポート」を2013年に開設しました。ドコモのユーザーに向けて、新商品の紹介やスマートフォンの使い方をX上で解説しているだけでなく、災害時のアナウンスも行っています。
このように継続的にSNSで顧客が役立つ情報を発信することで、顧客満足度の向上や、商品やサービスへの興味・関心度の維持に繋がります。
リテンション広告
リテンション広告は、既存顧客に対するクロスセルや、休眠顧客に再びサービスを利用してもらうことを目的として提示する広告を指します。例えばサイトの下部や側面に表示される広告、動画の合間に流れる広告などがあり、プッシュ通知の設定をOFFにしている顧客にも有効です。
カスタマーサポート
カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせに対応する「お客さま窓口」です。既存顧客が抱える疑問や悩みを解消することで満足度を高められるため、リテンションマーケティングの一種とされます。
例えば、公式サイトへの問い合わせフォームを設けたり、電話番号やメールアドレスを公開しています。また、最近では簡単な質問に対応する簡易窓口としてSNSを利用したり、24時間返答できるチャットボットを活用する企業も増えています。
リアルイベント
リアルイベントは、ワークショップやセミナーなどのイベントを通じて、企業と既存顧客が直接的な交流を持つ場を指します。新商品に手を触れたり、スタッフに疑問や悩み事を対面で質問できたりと、顧客満足度を向上させやすい手法です。さらに、イベントによって顧客同士がつながる場面もあり、企業は自社のファン層を育てやすくなります。
ロイヤルティプログラム
ロイヤルティプログラムは、顧客の継続的な購買と参加を促進する強力な手段です。その主な目的は、顧客に質の良い体験を提供し、ブランドへの愛着や信頼を深めてもらうことです。このプログラムにはポイントシステムやランクアップ制度といった特典が含まれます。
レコメンド
レコメンドとは、顧客の購買履歴やECサイト上の行動履歴(閲覧したページ、滞在時間など)を基に、おすすめの商品を提案する機能です。同時に購入してほしい関連アイテムを伝える「クロスセル」や、購入検討中の品物よりも上位モデルを提案する「アップセル」などに活用されます。レコメンドは、顧客満足度と顧客単価の上昇を同時に狙えるのが特徴です。
リテンションマーケティングのステップ
続いて、リテンションマーケティングを成功に導くにあたって、担当者が頭に入れておくべきステップについて解説します。
(1)顧客のデータを収集・分析する
リテンションマーケティングを実施する際は、顧客について理解できるよう、データの収集と分析をすることが重要です。顧客の属性を知り、過去の購入履歴や現在の利用状況といったデータを参考に分析していきます。顧客データを分析する際、RFM分析が役立ちます。RFMとは、Recency(最新購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(累計購入金額)の頭文字を取ったものです。RFM分析を通じて「優良顧客」や「休眠顧客」などにセグメント化することで、適切な施策を実施できます。
また、データを分析する際は、データ分析ツールを活用することも1つの手段です。顧客が多い場合、手動での管理はミスが起こりやすくなるため、分析ソフトを用いて効率化することをおすすめします。
【顧客分析とは】主な手法から顧客分析に活用できるシステムも紹介!
(2)成果指標(KPI)を明確にする
リテンションマーケティングの施策を実施する場合、成果指標(KPI)を明確にする必要があります。KPI(Key Performance Indicator)は、業績や目標達成を測るための重要な指標です。リテンションマーケティングにおいて一般的に用いられるKPIには、「リテンションレート(顧客維持率)」と「ユニットエコノミクス」の2つがあります。
リテンションレートとは、契約完了した顧客数に対し、引き続き契約継続中の顧客数の割合であり、サービスの継続率や定着率を数値化したものです。リテンションレートは以下の公式で求められます。
リテンションレート(%)=継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100 |
ユニットエコノミクスとは、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得単価)を組み合わせた指標です。顧客一人がどれだけ利益を生み出すか、顧客一人を獲得するためにはどれだけコストがかかるかを表します。ユニットエコノミクスは以下の公式で求められます。
ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC |
(3)顧客に合わせた訴求方法でアプローチを行う
すべての顧客に対して同じアプローチをするのは好ましくありません。顧客ごとに、ニーズに沿ったアプローチをする必要があります。
過去に一度でも商品やサービスを利用した顧客には、リピーターになってもらうために2回目の購入時(来店時)に使用できるクーポンを発行したり、休眠顧客には目玉商品やセールといったお得情報を配信するなど、アプローチ方法を使い分けることでOne to Oneマーケティングを実現できます。
(4)効果測定を行う
(2)で設定したKPIを目標として実際に施策を実行します。そして効果測定を実施し、改善をしながら繰り返し行います。
施策を行う中で、KPIの確認・修正、データ収集、分析などの工程を踏んで常にPDCAサイクルを回すことが重要です。データ分析ツールを使用すると効率よく施策を最適化できます。
リテンションマーケティングの成功事例
ここからはリテンションマーケティングの成功事例を紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
Netflix
「Netflix」とは、国内外の映画・ドラマ・アニメ・ドキュメンタリーなどが定額料金で視聴できる動画配信サービスです。Netflixでは、ユーザーが視聴したコンテンツや、使用したデバイスで、視聴時間の長い時間帯などユーザーの行動データを収集・分析しています。個別のユーザーにおすすめのコンテンツをレコメンドすることや、ユーザー全体の視聴傾向を掴むことでオリジナルコンテンツの制作に活かしています。また、ユーザーの行動データを施策に活かすことで、解約率を引き下げ、LTVを向上させています。
星野リゾート
日本国内と海外で温泉旅館リゾートやホテルを運営する「星野リゾート」。星野リゾートはアンケートにより顧客の意見を取り入れ、サービス改善を行うことで「リピート率20%以上」といった高いリピート率を実現しています。
アンケートは随時データ化し、顧客ごとのニーズや好みなどを整理しています。次回顧客が宿泊した際には、事前に顧客情報を把握した上で接客を行うことで一人ひとりに最適なおもてなしを提供するOne to Oneマーケティングを実現しています。
ZOZOTOWN
株式会社ZOZOが運営するファッション通販サイト「ZOZOTOWN」では、ツケ払いという支払い方法があります。ツケ払いとは、商品の注文後2ヶ月間支払いを延長できるサービスです。ZOZOTOWNでは、2016年11月よりツケ払いをスタートしており、カートに入れたまま購入を忘れてしまい休眠顧客になっていたユーザーの購入確定率を高めることに成功しました。また、金銭的に余裕がない場合でも商品を購入可能であることから顧客との関係が切れず、長期的な関係構築を実現しています。
他にもZOZOTOWNでは様々なリテンションマーケティング施策を打ち出しています。例えば、会員限定クーポンの配布や、アプリからのプッシュ通知です。中でも「ツケ払い」は長期的な関係構築を実現する上で有効とされています。
リテンションマーケティングならトリニティのポイントサービス「VALUE GATE」
トリニティのポイントサービス「VALUE GATE」なら、ポイントの付与・利用・取消などの基本的な操作に合わせて、会員にメール配信ができます。ランクや属性(年代・性別)などのセグメント抽出をしてからターゲットに合わせた配信ができたり、予約配信を利用してあらかじめ曜日や時間を決めておくと、タイミング通りに効果的な配信が可能です。また、商品を購入した顧客に送るサンキューメールや、ポイントの有効期限が近づいていることをお知らせする機能もあり、これらの機能を組み合わせて使うことで、顧客とのコミュニケーションを強化することが可能になります。
まとめ
本記事では、リテンションマーケティングの具体的な手法、成功事例についてご紹介しました。
事業の売上向上を目指すには、既存顧客と良好な関係を築き、継続的な購買やサービス利用に繋げることが重要な要素となります。既存顧客がどんなニーズを持っているのか、またどんな不満を抱えてサービスから離脱してしまったのかなどといった観点から顧客を知り、ひとり一人に合わせたリテンションマーケティングを展開することが重要です。